出前体育の教室アンケート結果に関する考察 

NPO法人日本ランニング振興機構は、コカ・コーラ教育・環境財団の助成を受けて2015年〜2016年にかけて、全国各地の中学校にランニングの普及を目的としたランニング指導を「出前体育の教室」という形で行った。その際、事後にアンケートを配布して受講内容について回答を受けた。その結果をもとに、中学生のランニング志向についてまとめた。

<期間および対象>
2015年10月〜2016年11月
兵庫県神戸市・茨城県北茨城市・沖縄県沖縄市・岩手県大船渡市・神奈川県厚木市・鳥取県鳥取市・茨城県笠間市・北海道札幌市・福島県小野町・広島県広島市の中学1年生〜3年生
総計 1,240名

中学1年生 中学2年生 中学3年生 無回答 合計
男子 女子 男子 女子 男子 女子 男子 女子 総計
人数 226名 188名 410名 413名 1名 1名 1名 637名 602名 1,240名
割合 18.2% 15.2% 33.1% 33.3% 0.1% 0.1% 0.1% 51.4% 48.5%

<授業内容>
当法人のランニング指導は、4・1ランというランニング理論を基に行われる。脚を4の字の形になるように膝を屈曲させた後、その脚を数字の1の字になるように、真っ直ぐ膝を伸ばして接地させることを意識させる走法である。また、前方向への弾む力の強化や、ピッチアップ効果を狙うために、テンポに合わせて走るリズミックランというプログラムを行っている。

<主な質問内容と回答>
◯放課後や休日に部活動や地域クラブに参加していますか?(複数回答)

運動系部活 文化系部活 運動系地域クラブ 参加していない 合計
人数 927名 202名 108名 76名 1,313名
割合 70.6% 15.4% 8.2% 5.8%

◯体育の授業以外で1時間以上体を動かす時間は、週に何日ありますか?

5日以上 3〜4日 1〜2日 0日 無回答 合計
人数 744名 210名 186名 96名 4名 1,240名
割合 60.0% 16.9% 15.0% 7.7% 0.3%

◯走ることは好きですか?(全体回答)

好き どちらともいえない 嫌い 無回答 合計
人数 544名 499名 197名 0名 1,240名
割合 43.9% 40.2% 15.9% 0.0%

◯もっと速く走れるようになりたいですか?(全体回答)

速くなりたい よくわからない 速くならなくてもよい 無回答 合計
人数 1,103名 105名 28名 4名 1,240名
割合 89.0% 8.5% 2.3% 0.3%

◯今日の教室はどうでしたか?(全体回答)

楽しかった 普通 楽しくなかった 無回答 合計
人数 1,056名 163名 16名 5名 1,240名
割合 85.2% 13.1% 1.3% 0.4%

◯楽しかったと答えた人の理由(複数回答)

走り方のコツがわかった 気持ちよく走れたので 速くなった気がしたので 皆と一緒に参加できたので その他 合計
人数 652名 428名 387名 412名 32名 1,911名
割合 34.1% 22.4% 20.3% 21.6% 1.7%

◯楽しくなかったと答えた人の理由(複数回答)

走り方がわからなかったから 疲れたから 速く走れそうになかったから 練習の効果がわからないから その他 合計
人数 4名 2名 2名 5名 0名 13名
割合 30.8% 15.4% 15.4% 38.5%  0.0%

<考察1>

走ることは好きですか?

走ることが好きな生徒とどちらとも言えない生徒で80%強を占めていた。嫌いがもう少し多いと予測していた。運動系部活や地域クラブに所属し、週に3日以上の運動のしている生徒が70%以上いたことに起因しているのかもしれない。

もっと速く走れるようになりたいですか?

走ることが好き嫌いに関わらず、多くの生徒が速くなりたいと思っていることがわかった。しかし、走ることが好きではない生徒ほど、速くなることへの関心が薄い傾向も見られる。

 

出前授業を受講した感想の結果は以下の通りである。

今日の教室は楽しかったですか?

楽しかったと答えた人の理由(複数回答)

楽しくなかったと答えた人の理由(複数回答)

今回の出前授業を受けて、楽しいと答えた生徒が85.2%の1056名、楽しくなかったと答えた生徒が1.3%の16名となった。楽しかった理由を複数回答可という条件で答えてもらった結果、「走り方のコツがわかった」「気持ちよく走れた」「速くなった気がした」など、プログラム自体に何らかの手応えがあったため、楽しく感じたという意見が多く見られた。逆に楽しくなかった人の理由は、「走り方がわからなかった」「速く走れそうになかったから」「練習の効果がわからないから」などの手応えがなかったため、楽しくなかったという傾向が見られた。与えるプログラムに学習できたという手応えがあるかどうかが、楽しかったかどうかの分岐点になると考えられる。
また、楽しかった理由の中で「皆と一緒に参加できたから」という意見も20%前後見られた。特に、「走ることが好きですか?」という質問に「どちらともいえない」と答えた群において26.3%と他より多く見られた。走ることは好きでも嫌いでもないが、一緒に行う仲間がいれば楽しむことはできるということが考えられる。

<考察2>

リズミックランについての感想(複数回答)


リズミックランとは、音楽やリズム・テンポ音に合わせて走るというプログラムである。遅いテンポ(130〜150BPM)の時は、脚を遊脚させる時間が長いので、ストライドを伸ばすことに効果があり、早いテンポ(220〜300BPM)の時は、脚を速く回転させなければならないので、ピッチアップ効果が期待できる。「音楽・リズムに合わせて楽しかった」という答えが最も多く41.3%となった。次に、「走りやすかった」という答えが27.9%となった。テンポ音に合わせて走らなければならないので、普段走るときとは、また別の目的ができてくる。普段速く走ることができない生徒も音に合わせて走ることへの挑戦となるので、各々の走力で楽しむことができたと推察される。

<まとめ>

この度、コカコーラ教育財団よりこのご依頼をいただいた時、今時の中学生は積極的にランニング指導を受けてくれるだろうかという不安があり、緊張してこの事業に臨んだ。結果的に、概ね私たちの不安は払拭され充実した授業を行うことができた。今回の事業で85%以上の中学生が楽しかったと回答したことは当法人にとって大きな収穫となった。このような機会を与えてくださった関係者に大いに感謝したい。

神奈川県立体育センター 指導研究部 スポーツ科学研究室 は、『平成18年度 県立体育センター研究報告書 学校体育に関する生徒の意識調査 ~中学生の意識~ (3年継続研究の2年次) 』において中学生の体育に関する意識調査を行っており、体育が楽しく感じる時と、つまらなく感じる時について以下のように見解をまとめている。

体育の学習が楽しいのはどんなときかたずねたところ、各学年男女ともに1番は「記録が伸びたり、できなかったことができるようになったりしたとき」で、運動有能感の「統制感(努力すれば、練習すればできるようになるという自信)」が高まったときを最高位にあげている。各学年男子の2番は「思い切り身体を動かすことができたとき」で、活動欲求が充足されたとき、各学年女子の2番は「友だちと仲よく一緒に学習できたとき」、3番は「うまくできたり、頑張ったりしたときに、仲間や先生がほめてくれたとき」で、運動有能感の「受容感(教師や仲間から受け入れられているという自信)」が高まったときをあげている。

体育の学習がつまらないのはどんなときかたずねたところ、「練習しても記録が伸びなかったり、練習してもうまくならなかったりしたとき」が1年生男子を除き1番となった。(1年 生男子は2番)2番には1年生を除いて「気持ちがすっきりせず疲れたとき」であった。 (1年生男子の1番)2・3年生の3番は「運動の仕方がわからなかったり、思うように学習 できなかったりしたとき」であった。 これらの結果は、「体育が楽しいと感じるとき」と表裏の関係にあり、「記録が伸び、うまくできるようになる」と楽しく、「記録が伸びず、うまくできない」とつまらないと多くの生徒が回答したことは当然であり、学習成果の良し悪しが「楽しさ」「つまらなさ」に直結して いることが明らかになった。このことから、体育の学習において、「失敗経験」から「否定的 評価」につながるような学習をなくし、「成功経験」や「肯定的評価」を数多く与え、運動有能感を高めることのできるような取組みが求められる。 ※1

今回の出前授業のアンケートにおいても、この見解と同様の結果が見られたように感じる。学校体育においては、走る速さを測定するような授業は行われると思うが、走るフォームを具体的に教わる機会は少ないと思われる。走運動はタイムにより評価されることが多いがために、子供は成長とともに走ることを苦手とする傾向が高いと思われる。今回出前授業では、効率よく走るために当法人理事長の高野進が提案する4・1ランという理論と、ピッチ・ストライドの向上効果を目指すリズミックランを行った。

具体的な走法を学習し、理解し、走ってみて効果を感じたことで「楽しい」と感じる生徒が多かったと推察される。また、リズミックランはテンポに合わせて走るようにという指示で動くプログラムである。だいたい240〜300BPM(beat/minute)で走るのだが、これは男子トップクラスのスプリンターと同じくらいである。速くはないが、トップアスリートと同じ脚の回転数で走ることはできるか?というところで、盛り上がることができる。リズムの通りに走れるかに挑戦することにより、速さを気にしなくて良くなるので違う楽しみ方ができると思われる。リズミックランは、仲間同士でも「リズムに合っていたか」どうかの評価ができるので、速い遅いとは違うポジティブな評価ができる。このことも、走ることを楽しめる要因の一つとなり得たと感じる。

今回のアンケートでは自由記述も行ってもらったが、これらを裏付けるようなコメントが多々見られた。

・走るコツを楽しく学べたので、これから走るのがもっと楽しみになった。(1年女子)
・走り方などがよくわかってたのしかったです。(1年女子、12歳から走るのが嫌いと回答)
・速く走れないせいで人と比較されることがいやだったけど、今回まなんだことを生かして速く走れるようにしたい。(1年女子、8歳から走ることが嫌いと回答)
・リズムに合わせて走ったりすることができたので、よかったです。また走り方のコツが分り、よかったです。(1年女子、7歳から走ることが嫌いと回答)
・走ることがこんなに楽しいなんて思わなかった。これから部活であるランニングなどが気持ちよくできるんじゃないかなと思う。(2年男子)

以上のことから、学校体育において走ることを楽しめるようにするためのプロセスを上記図にまとめてみた。このプロセスが全く逆になると、走ることはつまらないと感じる。体育において走ることで学ぶことは、単純に「速くなる方法」だけを学ぶだけではなく、「楽しく走る方法」も学ぶべきと当法人は考える。この時期に具体的で効率がいい走法を学ぶとともに、楽しかったという記憶が残れば、後々、生涯スポーツへの取り組みも変わってくることは推察される。陸上競技は個人スポーツだが、今回の「皆と一緒に参加できたから」を楽しかった理由にあげている生徒が多かったことは、走ることを楽しみながら、パフォーマンスを向上させることを学ぶためにはコミュニティが必要であると考えられる。その意味では、今回行った「リズミックラン」は、大勢で走力を意識しないで盛り上がることができるので体育に導入するプログラムとして非常に有効と考える。今後も当法人は、走ることを楽しめるプログラム作成に尽力し、ランニング普及に寄与していきたい。

<参考文献>
「平成18年度 県立体育センター研究報告書 学校体育に関する生徒の意識調査 ~中学生の意識~ (3年継続研究の2年次) 」神奈川県立体育センター 指導研究部 スポーツ科学研究室

<考察・文責>
髙野香織(JRPO講師)