参加者7割がタイムを伸ばした50m走の測定を「動画分析」

2018年9月に三郷市栄中学校で開催したランニング教室で、授業の最初と最後の計2回、50m走の測定を実施しました。
その結果、参加した中学2年生94名のうち71%にあたる67名が、2回目の測定でタイムを伸ばしました。
JRPOでは、94名の走りの変化を分析し考察しました。

<測定方法>

軽いウォーミングアップ後、具体的な講習に入る前に50m走を測定。その後、高野進による講義「走りの謎を探る」およびランニング指導を受講後、もう一度50m走を測定。前後の結果を比較してみた。走タイム・BPM、歩数、ストライド、ピッチをJRPO開発のアプリ「ストップウォッチ for スプリントコーチ」を用いて測定し分析した。

<各項目の平均>

全体の平均値  50m 1回目 2回目
タイム 9.08秒 8.98秒
ストライド 1.49m 1.50m
ピッチ(1秒間の回転数) 3.74歩 / 秒 3.74 / 秒

<1回目と2回目の比較>

タイムの比較 人数
速くなった人(伸びた人) 67人 71%
変わらなかった人 2人 2%
記録が落ちた人 25人 27%
ストライドの比較 人数
伸びた人 48人 51%
変わらなかった人 37人 39%
伸びなかった人 9人 10%
ピッチの比較 人数
上がった人 44人 47%
変わらなかった人 3人 3%
下がった人 47人 50%

走速度の決め手は「ストライド」と「ピッチ」

走速度は、ストライドとピッチで決定されることから、今回は、タイム・ストライド・ピッチの結果をまとめた。
ランニング指導を受講後、94人中67名の71%の生徒が記録を伸ばすという結果が得られ、タイムの平均が0.1秒向上した。
ストライドについては、およそ半数の51%の生徒のストライドが伸びた。
ストライドが減少した生徒は94人中9人の10%だった。
ピッチについては、94人中44人の47%の生徒がピッチの向上、47人の50%の生徒にピッチの減少が見られた。

・記録が伸びた67名中ストライドが伸びて記録が向上したのが25名、ピッチが上がって記録が向上したのが31名、両方増加で記録が向上したのが11名だった。

・記録を落とした人25名中ストライドが減少して記録を落としたのが1名、ピッチが下がって記録を落としたのが22名、両方減少で記録を落としたのが2名だった。

「4・1ラン」とは

当法人のランニング指導は、4・1ランというランニング理論を基に実施する。
脚を4の字の形になるように膝を屈曲させることで、大腿部のスイングをスムーズにし、股関節の回転力(トルク)が上ることを目的としている。
また、数字の1の字になるように、真っ直ぐ膝を伸ばして接地させることを意識することで、弾性エネルギーを用いて地面反力を有効に前方向へ出力させることを目的としている。
また、前方向への弾む力の強化や、ピッチアップ効果を狙うために、テンポに合わせて走るプログラムを行っている。
今回、指導を終えて2回目の測定を行った際に、走タイムとは関係なくストライド・ピッチに変化がみられた割合がほぼ半々だった。

同地域の小学生の場合

参考までに、2017年9月、三郷市新和小学校にて開催した小学校6年生を対象とした講習会では、
参加者125名中ストライドがのびたのは18名、ピッチが伸びたのは84名だった。
また、30m走の記録が向上した70名の内訳については、70名中60名にピッチの向上がみられた。
今回、小学生と中学生では明らかに違う結果になったと感じる。

<各項目の平均>

全体の平均値     30m 1回目 2回目
タイム 5.88秒 5.84秒
ストライド 1.40m 1.38m
ピッチ(1秒間の回転数) 3.71 / 秒 3.78 / 秒

<1回目と2回目の比較>

タイムの比較 人数
速くなった人(伸びた人) 70人 56%
変わらなかった人 3人 2%
記録が落ちた人 52人 42%
ストライドの比較 人数
伸びた人 18人 14%
変わらなかった人 55人 44%
伸びなかった人 52人 42%
ピッチの比較 人数
上がった人 84人 67%
変わらなかった人 0人 0%
下がった人 41人 33%


同じプログラムで、なぜ、小学生と中学生の結果が違うのか

このような結果が得られた原因には、子どもの発育発達段階が大いに関係していると考えられる。
アメリカの人類学者スキャモンが提唱した人体各器官の発育過程に倣うと(スキャモンの発育曲線)、中学2年生にあたる13歳〜14歳の時期は一般型という身体的成長を示す値が伸びてきて、身長や筋肉量が多くなってくる。筋肉量が増え脚力がつくと、より大きな弾性エネルギーを蓄え、接地した時に伸びきったバネが縮むように力を出すことができる。今回、ストライドを向上させた生徒の割合が小学生に比べて大きかったのは、このことから起因し、動きがよりダイナミックになったことによると考えられる。
とはいえ、子供の発育発達段階には大いに個人差がある。幼児期から小学校6年生にあたる時期は神経型の発達が目まぐるしく、敏捷性、器用性が向上する。小学校6年生を対象とした講習では、講習後、子供たちに顕著なピッチの向上が見られたのは、これに起因するものと思われるが、中学2年生においても、発育発達がまだこの段階にあり、ピッチを向上させる生徒もいたと考えられる。
また、4・1ランの理論は効率よく脚を回転させ、スムーズに走ることを目的としているので、受講後、オーバーストライド気味だったフォームが修正されて、ストライドが縮小してピッチが向上することは考えられる。
今回、記録が伸ばせなかった人の多くはピッチが低下している。これは、本人のモチベーションや疲労も大いに関係すると思われるが、無理に脚を回しストライドを大きくすることではなく、ピッチの維持に努めることが記録の向上に繋がることも示唆している。

楽しんで取り組めるプログラムを!!

当法人では、小学生向けのかけっこ教室を開催することが多く、中学生においてデータを得られる機会があまりない。
今回、ご協力を得てこのようなデータを得られたことに感謝したい。
そして、結果を見て小学生と中学生の受講後のパフォーマンス効果が違うことに驚いた。
中学生には、4・1ランを身につけることでよりスムーズでダイナミックに走ることができることを期待している。事後のアンケートでは、75%の生徒が楽しかったと答えてくれて、有意義な講習になったと思われる。中でも、4・1ランを軸としたテクニカルな内容とリズミックランが楽しかったという意見が多く見られた。
リズミックランは、速く走ることよりリズムに合わせて走ることができるかということに意識変換できるので、遊び感覚で楽しめる。走る目的が変わるので、速さを意識したくない子供にはいいプログロムになると考える。また、自由記述には、走るコツがわかったという意見が多く書かれていた。学校体育では具体的な走り方の授業というものは確立させていないように思われる。今後、私たちも走ることが楽しめる人が増えるよう普及活動に尽力していきたい。

【分析・考察】髙野 香織

走りの分析で使用した「ストップウォッチ for スプリントコーチ」の使用方法をYouTubeで紹介しています。
動画分析方法紹介